再会
2013年
街の人もまばらな雑踏の中、学ランを着た業と学ランを着た男子生徒Aが楽しそうに談笑しながら歩いている。
業が男子生徒Aの腕に絡みつき、男子生徒Aの顔に頭を擦り付けた。
それを特に誰も気にしなかった、交差点の向こうにいた一人の少女以外は。
業と少女の目が合う。
業はその少女の顔をみて、青ざめる自分を感じた。
少女が微笑んで手を振った。
そして踵(きびす)を返し、視界から消えた。
業「まずいっ知り合いだ!」
男子A「付属の制服着てたよ?」
業「小学校で一緒だった奴なんだ二中の女子に広まる!」
男子A「ど、どうしちゃったのあわてちゃって」
信号が青に変わる。
業「変な噂が立つ前に誤解を解いてくる!お前は帰っててくれ!」
男子A「ええ!?もっと遊んでたいよ!」
業「ごめん!今度埋め合わせするから!」
男子A「そんなあ」
耳元で
業「エッチなことしてやるからさっ」
男子A「ほんと!?」
業「嘘は言わねえよ!行ってくる!」
男子A「うん!」
☆★☆
業「アスカ!」
振り返る田澤さん
息を切らして追いつく業
業「さっき...!何を見た?」
田澤「別にい?何も見てないわよ、猫みたいに男の子に甘えてるとこなんか」
業「誤解なんだよ!」
田澤「あんたと私、付き合ってるわけでもないのになにかまずいのお?」
業「話聞いてくれよ!」
田澤「あら、そうね久しぶりに会ったんだし立ち話もなんだわ?この店にする?」
業「おう、ここでいい!」
☆★☆
田澤「ウーロン茶のSひとつお願いします」
業「んー、コーラのSひとつ」
店員「お会計は別になさいますか?」
田澤「一緒でいいです」
業「助かる」
☆★☆
じゅる
間。
業「あー何から話せばいいんだ」
田澤「単刀直入に聞いてあげようか」
業「うーんちょっと恐いけど」
田澤「あんたが恐がるものなんてあったの?変わったわねえ」
業「俺だってなんでこんなに焦ってんのか自分でわかんねえよ」
田澤「ふーん」
間。
業に顔を寄せ小声で
田澤「ねえ、あんたホモなの?」
業「俺にも色々あるんだよ~!!」
田澤「まあ、解らなくもないわ?」
業「解ってたまるかよ」
田澤「そんなことないわよ」
業「なんでだよ、なんでそんなこと言えんだよ?」
田澤さん、小声で
田澤「実はね、あたしも女の子が好きなの」
業「ええ!??そうなのかあ!?」
田澤「声が大きいよっ!!」
業も小声になり
業「い、いつからだ?」
田澤「小6くらいかなあ、修学旅行でみんなとお風呂はいってたら申し訳ない気持ちになったの」
業「そうか...俺はその辺の感じわかんないんだ。エロいとかそういうの」
田澤「あんた賢さは変わってないわね?」
業「どうだか、お前と一緒にいたころとなんも変わってねえよ」
田澤「ふーん、それで、男の裸で興奮したりはしないのね?」
業「そう、さっきのいちゃついてたやつは奴は俺の裸見てちんこ勃ててたよ、自然に。でも俺はノーマルのもホモのもエロ画像とか何とも思わないんだ」
田澤「ほんとにい?どっちかはするんじゃないのお?」
業「そこが誤解だってんだよお、俺はただイチャイチャすんのが楽しいだけなんだ」
田澤「へえ、そういうのって珍しいわねえ。でも相手は求めてくるんでしょ?」
業「うん...話がはえーな」
田澤さん、愉快そうに
田澤「そんなときはどうしてんのよ?」
業「応じるよ」
田澤「どっちやってんのかは聞かないわ」
業「タチはしたことねえぞ」
田澤「赤裸々よねあんた」
業「ぶっちゃけボ(ピー)ノールとかお世話になってるよ」
田澤「やめてよ(笑)」
業「セックスってさ、俺は気持ちよくないしオーガズムは一応あるけど」
田澤「ドライなの?」
業「いや、一応白いの出るよ、でもハマれないんだ」
田澤「オナニーはしないってこと?」
業「うん、夢精するたび風呂場でパンツ洗ってるよ」
田澤「それっておうちの人困るんじゃない?家庭の中で性はタブーだもの」
業「あんな家族にどう思われたってかまいやしない」
田澤「ごめん」
業「いいよ」
田澤「そういえば小6の時、あんたがすごく臭かったときあったわよね」
業「何か知らないけどクリーニング代出してもらえるようになったんだ」
田澤「あんたの親、腹違いだったの?」
業「そっ。親父が不倫してできたのが俺。じっちゃんに預けられて10歳まで育ちましたとさ」
田澤「じっちゃんが亡くなられて引き取られることになったのよね?今の家に」
業「まあ、親父の家族からしたら寝耳に水だよな」
田澤「普通離婚するよね」
業「その辺だなあ、継ぎ母は親父に対してやたら甘い。親父がそんなに稼いでないから共働きなのに俺を養う方を選んでる」
田澤「もしかして『離婚したらどうやって食べていくか』がわからないんじゃない?」
業「そんなことあるのか?」
田澤「あるみたいよ。でもやっぱりいい気分じゃないみたい」
業「だろうなあ...。ってかさ、転校したころからさ、俺、家に居たくなかったんだ」
田澤「あんたよくそんな家に住んでてあんな楽しそうにしてたわね」
業「家がそうだからだよ、学校が天国に思えたよ」
田澤「学校が天国か...そう思えるのはきっと、じっちゃんとすごしてた10年間のおかげね」
業「そんなもんなのか?」
田澤「自分は迷惑な存在だからって言って家に引きこもる人っているわよ」
業「家の人が煙たがるだろう」
田澤「そこよね、耐えやすい迷惑を選んでるんだと思う...」
業「お前、学校行ってないのか?もしかして」
田澤「あたしは行ってるわよ」
業「あたしは?誰が行ってないんだ?」
間。
業「今のクラスに不登校の奴がいるのか」
田澤「常本先生のクラスじゃ考えられなかったけどね」
業「中学校って難しいよなあ」
田澤「そんな他人事みたいに言わないでよ」
業「俺も知ってる人か?」
田澤「うん...」
業「...誰だよ」
間。
田澤「栞」
業「栞...?」
フラッシュバック
給食の時間
4つくっつけた机
向かいにミカミ
その隣に田澤さん
業の隣に最後の誰かがいる
物静かに話を聞いていて
でもときどき目をやると
楽しそうに笑ったのは栞。
我に返る業。
業「なんで栞が...」
田澤「あれはいじめに入るのかしら...」
業「なにされたんだ栞は」
田澤「無視よ」
業「栞って中学校で嫌われてたのか?なんであいつが」
田澤「あたしと仲良かったからかな」
業「お前人気者なのか」
田澤「あたしだってこんなこと望んでないわよ!」
業「声がでかいよっ」
田澤「栞が来なくなってやっと気づいたの、栞が笑ってるのずっと見てなかったって!」
業「アスカ...」
田澤「スポーツも勉強もそこそこできてたけど、ただ素の自分でいただけ!なのにクラスのみんなは自分を取り繕ってるのを思い出してたのよ!あたしを見て!」
業「だから栞を省いたってのか」
田澤「栞だって素の自分でいただけ!なのに栞だけがのけ者にされた!」
業「いつからだ?」
田澤「5月の連休明けからよ」
業「5月か」
不良A「よおよお」
不良B「おめーらどこ中だ?」
キョトンとする業と田澤さん
業「てめーらこそどこ高だよ?脳みそ足りてなさそうだぜ?」
不良AB「んだとこらあ!?」
田澤「ちょっと挑発しないでよっ」
業「お前らより格上の奴が俺の兄貴だったらどうする?」
不良A「!」
不良B「てめえの名前は」
業「さて!誰でしょう!?」
不良A「ざけんなこらあ!」
業「お前らがマジの不良じゃないことなんて一目瞭然なんだよ」
不良B「どういう意味だよ?」
業この上なくおどけて
業「高校でびゅ~~~~」
田澤「業っ!!」
ヴヴ
業「あ?着信?」
不良A「俺らを優先しろよ!!」
業「!」
田澤「こんなときに電話出る気!?」
業「常本先生?」
不良AB「!!」
業「あ、切れた」
不良B「常本って、常本哲也か!?」
業「何で知ってんだ?」
不良A「お前らはあの先生のなんだ?」
田澤「あたしの6年間の担任よ」
不良の二人顔を見合わせ
不良A「お前ら幸せだな」
田澤「そう思うわ...でもだからこそ生じる問題だってあるのよ」
不良B「不登校の子、そのうち戻るといいな」
業「聞いてんじゃねーよ」
ヴヴ
業「今度はメールか。」
常本先生のメール〈ごめんあの時の履歴間違って押しちゃった〉
業「だって」
田澤「あなた方はどうして常本先生を知ってるの?」
不良A「あの人夜回りしてんだ」
業と田澤さん、顔を見合わせる。
不良B「お前ら受け持ってた頃は違ったんだな」
業「もしまた会えたら常本先生との思い出聞かせてやるよ」
田澤「どっちかっていうと聞いてほしいんじゃないかしら」
不良A「俺はタバコ吸ってるとこ見つめられて話しかけられた」
不良B「俺はメシ奢ってもらった」
業「不良の間で常本先生、有名なのか?」
不良A「みんなに好かれてるよ」
不良B「おい、行こうぜ」
不良A「ああ」
業「...あんたら、名前は?」
不良AB「名乗るほどのもんじゃねえよ」
間。
田澤「去り際は悪くないわね」
業「ってか俺らだって今先生に救われたよ」
田澤「あんな挑発かましといて逃げる算段もなかったわけ!?」
業「俺らも出るか」
田澤「もうっ!」
☆★☆
途中まで歩く業と、田澤さん。
業「なあ、なんで俺ら同性がいいのかなあ?」
田澤「それ思うんだけど」
業「おう」
田澤「この感じってきっと誰の中にでもあるのよ」
業「クラスに一人って言われてるらしいぜ」
田澤「そうね、でもほんとは誰の中にもあるものなのよ」
業「表に出るやつは何が違うんだ?」
田澤「あたしたち、常本先生のクラスでみんな違ってみんないいってこと、つまり博愛を習ったわ」
業「博(ひろ)く愛する」
田澤「そう。だから普通は閉じ込めておく感情を自分に許しやすいのよ」
常本先生「よう」
業「え?」
田澤「どうしたの?」
業「...」
田澤「業?」
業「今、常本先生の声が聞こえた」
田澤「そろそろ夜回りの時間なのかしら」
業「死んだ人みたいに言うな」
田澤「ここが分かれ道ね」
業「そうだな」
田澤「栞のこと話せてよかった、今度一緒に顔見せにいかない?」
業「ミカミもつれてくよ」
田澤「アドレスと番号交換しとく?」
業「偶然会うなんて今日だけだよ」
田澤「業打ってよ、あたしのアドレス」
業「いいぜ、見せろ」
間。
業「いつ栞んちに行く?」
田澤「次の週末」
業「おっけー、部活とかは?」
田澤「帰宅部だから平気よ」
業「俺も。あ、そういやミカミ野球部辞めたんだ」
田澤「そうなの!?」
業「他にやりたいこと見つけたらしい」
田澤「結構センス有りそうだったのに」
業「小学校の頃に味わった野球の楽しさには敵わないらしい」
田澤「栞も何か見つけれたら...」
業「学校行くことにこだわることなんてねえよ」
田澤「そうもいかないわ」
業「栞が生きてるならひとまず安心だって」
田澤「そうね、あんたが死ぬなんて想像できないわ?」
業「ん?なんだそれ?」
田澤「あたしと業とミカミが生きてるって知ったらさ」
業「ちょっとは元気出してくれるかもな」
田澤「じゃあ週末にね」
業「おう」
第6話 再会 つづく