栞さんの不登校
2013年
1-3
業「ミカミ、土曜空いてるか?」
ミカミ「うーんごめん用事ある」
業「そうか...」
土曜日。
田澤さんと待ち合わせ場所で合流する業。
業「栞には連絡してんのか?」
田澤「栞、携帯持ってないもの」
業「家にもかけてないのか」
田澤「いなかったら日を改めればいいわ?」
業「それもそうだな」
☆★☆
ピン、ポーン
栞の母が出る。
田澤「あの、栞さんいますか?」
栞の母「まあ!田澤アスカさんね!そっちは若山業くん!!」
田澤「覚えててくれたんですね」
栞の母「いつもあの子に思い出話を聞かされてるもの!ミカミくんも来てるのよ?」
業「え?」
ミカミの靴が見える。
栞の母「二人とも音楽室にいるわ?」
案内される業と田澤さん。
がちゃ
スティックを持ったミカミ「あ!」
業「打ち込むことってこれか、ミカミ?」
栞「アスカ...!業...!」
☆★☆
談笑する4人。
ドラムを叩いてみせるミカミ。
田澤「サマになってるじゃない」
栞「二人で合奏したりもするの」
業「ドラムとピアノでかあ」
☆★☆
栞「中学校でも業とミカミがいてくれたらって思った」
田澤「それでも常本先生までは引っ張ってこれないわ」
栞「アスカ、連れ戻す気で来たの?」
業「違うよ、ただ顔見せたかっただけだよ俺もアスカも」
田澤「ごめん業」
間。
田澤「ちょっとは連れ戻そうと思ってたわ」
栞、うつむく。
だんだんと深刻なムードになってく音楽室。
業とミカミ「...」
田澤「栞は悪くないのに栞があいつらの悪意に同調してちゃダメなのよ!」
わなわなする栞。
間。
栞「あのクラス、気持ち悪い!みんな自分を偽ってる!みんな嘘の自分で生きている!常本先生のクラスは違った!常本先生は本当の自分を自分で愛していたから!だからみんな無意識にまねしてた!常本先生を!自分で自分を愛するってああいうことだったのよ!なのに、それをしてる自分を常本先生は嘘だって言った!あの授業で!それこそが嘘なのよ!本物はみんなの中に居るのに、みんな本当の自分と出会ったら血の雨が降ると思ってる!それを怖がってるのに勇気だ、自由だってほざいてるのよ!自分を束縛してるのは自分以外の誰でもない!人を束縛できるのは自分だけ!みんな箱を開けたいのよ!でも、この箱を開けることは常本先生にもできなかった...怖かったんじゃない!一人じゃできないの!だから常本先生は教師になった!開けてくれる誰かをずっと信じてた!絶対疑わなかった...!答えは一つしかないの!箱を開けるなら...全員で...。誰も置き去りにしないって言葉で約束するべきなのよ!!なのに差別をして...心の底の不思議を他人に見出して八つ裂きにしてきた!戦争も犯罪も、この世の悪の全ては自分に出会いたいって動機の裏返しなのよ!!みんなの悪意をひっくり返すなんてあたしにはできない!だけど業!あなたになら」
顔を上げると誰もいない。
沈黙
栞「はは...、言わなきゃよかった」
沈黙
栞「どうして誰もいないの?この部屋から出ていったの...音もたてずに?そんなことありえない」
???「今ここには君しかいないのさ」
振り返ると夏服の制服を着た、変わった髪型の少年が背を向けて、座って、片膝を立てて、積み木を積み上げている。三つしかない積み木を。
赤の上に水色が載っている
その上に青い積み木を載せた。
???「どうして」
栞「?」
???「振り返らずに誰もいないって思ったの?」
カットイン
青の問い『なぜ、振り返らずに自分以外の存在がいないと決め付けたのか』
栞「だって、4人しかいなかったもの...あなた誰...?」
後ずさる栞。
???「ごめん、今は名乗れない」
栞「どうしてここにいるの...?」
???「君が来たんだ、君の方から」
栞「あなたは常本先生の底で眠ってた不思議なの?」
???「なるほど、それでここにこれたんだ」
栞「どういうこと?」
???「あの人は、常本哲也は青の自分を愛してる、だから子供の頃に何度もここに来た、相手をしたのはオレじゃなかったけどね」
栞「常本先生のこと知ってるの?あなたもしかして常本先生の最初の生徒なの?」
???「おしいな、オレは君と同い年さ」
栞「あなた誰なの?」
積み木を崩す謎の少年。
2つの積み木が床に崩れる音に栞はおびえた。
???「ちょっと待ってね」
青を一番下にして、その上に水色、赤を積み上げた。
少年が振り返った。大人びてるようなあどけないような顔立ちがみえる。
???「オレは由人、笹原由人がオレの名前」
栞「あたしは栞...あたし、部屋ごと由人のところに来たの?」
由人「そうだよ?哲也は心だけで来れたんだ」
栞「先生は、やっぱりすごかったんだ...」
由人「君だってすごいさ、一人で世界の核心に至った」
栞「聞いてくれる3人がいた、みんなは来てないの?」
由人「積み木が3つあるからね」
栞「誰も来ないときはどうしてるの?」
由人「この積み木で遊んでるんだ」
栞「積み上げるだけで退屈しないの?」
由人「崩すのが醍醐味さ」
栞「由人は生きてるの?」
由人「肉体の方に不思議がいるんだ」
栞「本来は肉体に由人がいるはずなのに?」
由人「崩すよ?」
水色の積み木を抜き取って上に載せた
由人「そう、本来は不思議の方が下に居るべきなんだ」
栞「どうして不思議が下ではなく上にあるの...?」
由人「オレが、人一倍臆病だからさ」
栞「嘘。それがホントならあたしとこんな風に話せるわけない」
ガラ
今度は怯えない栞。
積み木の順:下から青、水色、赤。
由人「みんな赤の自分がすべてだと思ってる、一番重要な自分しかいないって」
栞「どうやって自分の色を変えたの?」
由人「なりゆきでそうなっただけ」
栞「不思議のほうが上に居て、社会生活を送れたの?」
由人「普通に学校通ってるね」
栞「怖い...、あたしが学校行かない理由がなくなる」
由人「世界は終わったんだから安心しなよ」
栞「世界が終わった?」
由人「ハッピーエンドでもバッドエンドでもない終わり方をしたとき、みんなここに来るんだ」
栞「業たちの返事が聞きたい、さっきあたしが言ったことへの返事...」
由人「その子たちは君に追いついてないから無理だ、ホントの事実は誰にも聞こえないものなのさ」
栞「あたしの言ったことは正しかったの?」
由人「うん!君はだからすごい!」
栞「でも、誰にも会えなくなった...」
由人「精神科に担ぎ込まれることで両方を叶えること、つまり真実と共存することも可能だけど」
栞「今度は誰も話を聞いてくれなくなる」
由人「そういうこと」
栞「あたし、ずっとここにいるの?」
由人「それも叶わない」
栞「あたし、どこにいくの?」
由人「いるべき場所」
栞「それは元居た世界じゃないの?」
由人「そうとも言えるのかな」
栞「元の世界に戻ったら業たちにまた会える?」
由人「その子たちには会えるけど、君の到達した真実を口に出す前の時間の彼らだ」
栞「世界は分裂した...」
由人「潔癖になるなよ、業は業、ミカミはミカミ、アスカはアスカ」
栞「3人を知ってるの!?」
由人「約束してるんだもん、知ってる、アスカと栞には会ったことないけどね」
栞「業とミカミとはもう会ってるの?」
由人「そうだよ?でも彼らとすれ違ってるのは由人のオレじゃない。君の言葉で言うなら不思議の方のオレだ」
栞「時間、戻して」
由人「できない。進むことでそこに行けるんだ」
栞「どういうこと?」
由人「時間は揺り籠、思うように生きればいい」
☆★☆
田澤「栞は悪くないのに栞があいつらの悪意に同調してちゃダメなのよ!」
気持ちが叫ぶ前のように高ぶってる。
状況:叫ぶ前と同じ。
しかしもう一度同じことを叫んじゃいけないことがわかる。
栞「(もう一度同じことを一字一句、再現することをできる。でもそれをしたらあの子の言ってた精神科に担ぎ込まれる未来が待ってる...誰もあたしの話を真剣に取り合ってくれなくなる!)」
わなわな震える栞。
田澤「栞、言葉にできないその気持ち、ひとまずピアノで表現してみれば?」
栞「!聞いてくれるの?」
業「聞きたい!」
ミカミ「一緒に演奏してやろうか栞」
栞「え?」
ミカミの顔
栞「(どっち...?)」
由人の声「最後には問いが残るんだ」
ゲームのような選択肢
⇒ミカミのドラムとあたしのピアノで演奏する。
- 一人で演奏する。
二択。
カーソルが上下に点滅する、
- ミカミのドラムとあたしのピアノで演奏する。
⇒一人で演奏する。
栞「どっち...?」
由人の声「最後には自由が残るんだ」
ミカミ「栞の決めることだよ」
微笑むミカミ。
栞「(もしかして三人ともあたしの叫んだこと覚えててもう一度演じてくれてるの?)」
業「うーん、どっちがいいんだろうなあ?」
栞「わからない!どっちが正しいの!?もう失敗できないの!!」
田澤「もうっ!思うままにやればいいじゃない!」
栞「!」
間。
栞「(思うようにやればいい...さっきも同じこと言われた気がする、でも、誰に?あたし、何を怖がってたの?思い出せない)」
間。
栞「ミカミと一緒に演奏する」
☆★☆
ドラムとピアノの演奏
ミカミ「曲は?」
栞「バッハのパルティータ、ピアノの曲じゃないけど、やる!」
☆★☆
栞「みんな」
間。
栞「お昼ご飯...食べていって?」
☆★☆
業とミカミ「おかわり!」
栞の母「3杯目~~~!?男の子ってこうなの~~~!?」
田澤「ははははは(爆笑)」
栞「お母さん、そんな声上げるんだ!!」
業とミカミ「ええ?ははははは」
☆★☆
三人の声「お邪魔しましたあ!」
田澤さんの声(それでも栞は来なかった、中学1年生の時間のほとんどを栞は家で過ごした、あたしもあれから一度も顔を見せてない)
☆★☆
2014年4月
業「あ...」
2年3組
三上健太
2年4組
若山業
業「(ミカミと別のクラスになっちゃったか...)」
ミカミ「若ちゃん」
業「ミカミ...」
ミカミ「3組と4組、下駄箱挟んでるから遠いね」
業「体育の授業は一緒だよ」
ミカミ「さみしいな」
業「俺だって」
ミカミ「ずっと一緒だと思ってた、若ちゃんと」
業「俺もさ」
ミカミ「栞もこんな気持ちだったのかな」
業「俺とミカミをいっぺんに失ったのか」
ミカミ「自分で言うのもなんだけどアスカ一人じゃ」
業「言うなよ」
ミカミ「4人で一つの班だったんだ」
業「ミカミと一緒だからそれが続いてるような気がしてたよ」
ミカミ「おれ、今打ち込むものがあるから若ちゃん居なくても何とか頑張るよ」
業「ミカミがいなくなったら俺荒れちゃうかもな(笑)」
ミカミ「若ちゃんって不良じゃないけどさ」
業「ん?」
ミカミ「おれに秘密があるよね」
業「ミカミだってドラムのこと隠してたろ(笑)」
ミカミ「お互い踏み込めない領域があるんだ」
業「難しいこと言うようになったな...ミカミ...」
ミカミ「じゃあおれ3組行くよ」
業「俺も、新しいクラスの方向くよ」
ミカミ「じゃあね」
業「ああ」
☆★☆
2-4
席についてクラスの面々を見渡す業
笹原由人 松雪一葉 他 他 他
業「あ」
何かを思いつく業
業「(しばらく世話になるか)」
☆★☆
ピンポーン
モヒカンの男「はーい」
ガチャ
業「ただいま」
モヒカンの男「業」
業「またしばらく泊めてくんねえかな」
間。
モヒカンの男「おかえり」
☆★☆
業「友達と別のクラスになっちゃった」
モヒカンの男「帰る家があそこじゃ耐えられないって?」
業「うん」
モヒカンの男「ピザでも取るか」
業「鍋でもつつきたい気分だよ」
モヒカンの男「まだ4時か、よし買い出しに行こう」
業「うん!」
第7話 栞さんの不登校 つづく