二者面談


2014年

二者面談

担任「若山は夢とかあるのか?」

業「俺が教師になりたいって言ったらどうする?」

担任「どうして教師なのかを問い詰めるかなあ」

業「おすすめはしないんだ?」

担任「男の子ばっかりに構うわけにはいかないだろ」

業「...先生、俺のこと知ってるの?」

担任「いつも教室に君がいる」

業「...俺さ、教師なんかに、なんかって言ったら失礼か。いやもっと別のものになる気でいるよ」

担任「それを打ち明けてもらうことがこの面談の目的なんだよ?」

業「中2だもんな、荒唐無稽な事でもいいのか?」

担任「当ててみようか」

業「当てて当てて!」

担任「映画監督」

業「うーん近いといえば近い!」

担任「とにかく何かを作る仕事だろう?」

業「そうっ!」

担任「いつか作文に書いてたよな、人間はすべからく表現者であるべきだって」

業「みんなの作文覚えてるのか?」

担任「ラジオDJの読むそれよりは少ない文面だよ」

業「俺、中学校の先生たちのことなめてたのかな」

担任「どうして?」

業「ずっと秘密を暗示してたつもりなんだ、誰も気づくまい、ってさ」

担任「先生だって文学に触れてきたんだ、お前の暗示してたことだって少しは読み取れる」

業「俺が...ダメだ、共通言語が足りないや」

担任「そこだよ。たくさんの人たちにわかる言葉で表現しなくちゃいけない」

業「それってつまり、ちっぽけな表現者は俺に似合わないってことか?」

担任「そうだ、君の小学校の担任の先生から君の話は少し伝えられた」

業「え!マジ!?」

担任「ミカミくんと一緒のクラスにしてあげてくれってね、クラス決めはすごく難しいんだ」

業「クラスに一人ピアノを弾ける子がいるようにしたり?」

担任「お金持ちの家が被らないように、学力がまばらになるように。いろいろさ」

業「どうしてクラス替えで俺とミカミは別になったの?」

担任「それは言えない。」

業「そっか」

担任「業、いつかの授業で詩を書いてもらったな」

業「見渡す限り田んぼで~ってやつ?」

担任「あれを見る限り、お前にその資質はないよ」

業「資質って言ったな?」

担任「ん?」

業「その資質を越えられないようなら人に生きてる意味なんてないじゃないか」

担任「超えられない資質と折り合いをつけていくのが人間だ」

業「俺はそんな時代を終わらせたいんだ」

担任「将来の話をしてるんだからお前らはずるいよな」

業「ねえ、先生はどうして教師になったの?」

担任「まあ、この面談中に何度か聞かれたからこたえるが」

業「うん」

担任「親が教師だったから」

業「公務員ならなんでもオッケーだったってこと?」

担任「いや、教師になること前提に育てられてたと思うよ」

業「選択肢は何の科目にするかってことだけか、俺なら美術か音楽の先生になるな(笑)」

担任「そういう意味では先生も自分の好きな科目の教師になれた」

業「先生、時々自分の作品を授業の素材にするよな」

担任「正解がすべてじゃないって教えたいときはそうした」

業「そういうことかあ」

担任「業の親は何も求めてないのか?」

業「いないことになってからな、10歳から突然現れた」

担任「すまん」

業「気にしないでよせんせえ、俺、自分の運命も宿命も呪ったことないよ」

担任「運命と宿命?どうちがう?」

業「運命は選択次第で変えられること!つまりこれから!宿命は決まってること!」

担任「なるほどな...」

業「俺、高校生になったらバンドやるんだ」

担任「まさかそれで食ってくつもりか?」

業「それはわからない高校生活の三年間で決める」

担任「若山のパートは?」

業「キング」

担任「?」

業「ああ、楽器ね、ボーカルだよ」

担任「キングって何のことだ?」

業頭を掻く。

業「5人でトランプのカードになるんだ」

担任「どういうことだ?」

業「バンド名がオリジナル・トランプなんだよ」

担任「ああ~...」

業「キング、クイーン、ジャック、ジョーカー、エース、みんな違ってみんないい。それがコンセプト」

担任「そうかあ、メンバーは決まってるのか?」

業「決まってる。ジョーカーは由人、ミカミがエース。あとは他校の友達」

担任「笹原はサラリーマンになりたいって言ってたぞ」

業「あの野郎(笑)」

担任「うーん、笹原のあれは嘘だったのか...」

業「先生...」

担任「信用されてないってことだ仕方ない」

業「先生、俺、差別の無い世界を作りたいんだ、由人はもう嘘しか言えないんだ」

担任「笹原は正直に嘘を言ってくれるよな」

業「それが由人なんだよ!由人が普通に生きてくためには世界の方が異常なんだ!!だから俺は世界を変えたいんだ!」

担任「笹原は若山にとって何なんだ?」

業「一番大事な人」

担任「そうか、でもその序列が差別の原因なんじゃないか?違うか?」

業「矛盾したってかまわない、俺は博愛をなしてみせる」

担任「みんな違ってみんないい、か...」

業「金子みすゞのこと先生はどう思う?」

担任「よく知らない人と結婚しちゃったんだよなあ確か」

業「それって不幸なのか?」

担任「本人にしかわからないか」

業「ましてや女の人だ、男の俺たちとは世界の捉え方が違う」

担任「男同士でも若山と私はずいぶん見えてる世界が違うみたいだが?」

業「好きな世界を選べばいいんだ」

担任「変えられないのが宿命だってさっき言ったぞ?」

業「そうさ?宿命を携えて何を選べるかが自由なんだ」

担任「...教え子みんなに安定を提供しようとしてたのが馬鹿らしくなってくるよ、なんでお前が一番最後なんだ?若山?」

業「ワ行が俺だけだから(笑)」

担任「まとめに入ろう、若山は高校になったらバンドをやる気でいる、どの高校かは重視してないと」

業「そんなんでいいのか?」

担任「今はね。学力は平均より上なんだ、背伸びしてみるのもいいと思うが」

業「うーんそうだなあ、まあしいて言うなら学ランの高校がいいかな」

担任「そんなの理由にならないぞ(笑)」

業「でも俺、どこに行ってもちゃんと学校生活を果たすよ、そうじゃなきゃバンドも認められたことにならない」

担任「不良文化で終わる気はないってことか?」

業「そういうこと!先生解ってくれてるね!」

担任「お前を不良だと思ったことはないが...年上に混じって何かをするなら礼儀はわきまえなければならん」

業「まあ、いえ、そうですよね」

担任「急に改まるな(笑)」

業「僕、この面談が有意義なものだったと思います!」

担任「私もそう思うよ」

業「最後にもう一つ質問いいですか?」

担任「どうぞ?」

業「どうして人は差別をするのでしょう?」

担任「自分を定義できないからさ」

業「自分を定義できないから...」

担任「根拠無しに自信を持つことなんて誰にもできない、だからあれはあれ、これはこれ、自分は自分と段階的に自分を位置づける、それが自分の定義『らしきもの』だよ」

業「ありがとうございました!」

担任「こちらこそ。では二者面談を終了します」

業「はい...失礼しました!」

戸を開けて業が出ていく。

担任が生徒たちに関する書類に目を通してつぶやく。

担任「みんな違ってみんないい...か」

☆★☆

業「ミカミ!」

ミカミ「若ちゃん!終わった?」

業「おう!由人は?」

ミカミ「先帰ってるって」

業「ギター弾きたくてたまらないか」

ミカミ「おれだって消音パッドで練習してるんだぞ!」

業「わかってるって、問題なのは俺さ、特段歌もうまくないし」

ミカミ「大丈夫、あまたの男をたらし込んできた声が若ちゃんにはある!」

業「どんな声だよ(笑)でもこの声がみんなの楽器とまじりあうんだ、楽しみだな...」

ミカミ「世界をたらしこむ歌を歌う!」

業「おうともよ!」

談笑しながら校門を出る業とミカミ、二人の後ろ姿を誰かがうらやましそうに眺めていた。

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