若ちゃんくさくさ事件
2012年
6年2組
生徒A「何か業臭くない?」
業「いろいろあるんだ」
生徒B「いろいろって何さ」
生徒A「お風呂入ってないの?」
遠目に見ている常本先生
常本先生「...ネグレクトか」
サブタイトル『若ちゃんくさくさ事件』
業たちの方に行く常本先生
常本先生「どれどれ?」
ぴく
常本先生「(まずいな、お世辞にもいい匂いとは言えない...)いい匂いじゃないか」
生徒A「え~?」
生徒B「先生、鼻がおかしい!」
常本先生「自分らの鼻がおかしいとは思わないのか?」
生徒AB「う」
常本先生「お前らの服は誰が洗濯しているか思い出してみろよ」
生徒A「そりゃお母さんだけど」
常本先生「当たり前のことに感謝することだって必要だぞ?」
生徒AB「はーい...」
常本先生「さ、次の時間の準備をしなさい」
生徒A「わかったよお」
生徒B「でも今の業はくさいよ」
常本先生「こら、はやくしなさい」
促されて席に戻る二人
業「先生、俺どうしたらいいんだ?」
常本先生「(業の保護者は腹違いの継母、ネグレクトも警戒していたが...こう来たか)普通にしてなさい」
業「うん...」
常本先生「(目に見えて自信を失くしている...)業も次の授業の準備をしなさい(早く何とかしないと)」
業「わかった!」
常本先生「それでいい(健気な子だ...)(放置しろどんどんひどくなればいい)(お前を解放する子かもしれないんだぞ!!)」
田澤「常本先生?」
常本先生、我に返る。小声で
常本先生「アスカ、女子は業のにおいのことどう思ってる」
田澤「うん...洗濯機壊れたのかな、とか、お母さんが倒れたのよきっと、って話してるけど...」
常本先生「想像力を働かせているんだな(ひとまず安心か...いややはり早急に手を打たねば)」
生徒C「先生~体育館で転んじゃった~~!」
膝から血を流す生徒C。
したたる血。
常本先生「!誰か保健室へ...(なぜ直接保健室にいかない?)」
生徒C「先生が診てよ~」
常本先生「(さあ、どうする?)(お前の仕業か)(さあ、どうする?)」
キーンコーンカーンコーン
生徒Cをお姫様抱っこする常本先生
生徒C「わあ!」
常本先生「○○を保健室に連れていきます、みんなは自習しててくれ」
生徒たちの呆然とした表情。
☆★☆
保健室
常本先生「じゃあお願いします」
保健室の先生「はい」
ガラ
常本先生「(今はひと時も業から目を離したくないのに)」
廊下を急ぎ足で歩く常本先生
美海先生「きゃあ!」
常本先生「おっと失礼!」
曲がり角で美海先生とぶつかりそうになる
回想
常本先生「教科書に書いてあるだろ?」
過去の女子生徒「常本先生が嘘なんて信じたくない!」
常本先生「そうだ、嘘である俺をお前たちには信じてほしいんだ」
過去の生徒A「こんなに先生のこと好きなのに、どうして先生は自分のことを嘘だっていうの!?」
過去の生徒たち「うえええええん」
保護者A「もうやめろ!」
保護者B「何のためにこんな授業をするんです!!」
常本先生「(あの時みたいだ)(お前は孤立無援だ)(俺にはお前がいる)」
青白い、常本先生の少年の姿がうれしそうに笑う。
ガラ
みんなおとなしくして自習していた。
ホッとする常本先生。思わず業に目をやる。
それを察知したのはミカミ。
ミカミ「(おれを見てる?ああ若ちゃんか)」
常本先生「みんなありがとう」
栞「どうして、先生?」
常本先生「静かに自習してたみんなを誇りに思うぞ」
照れた顔をする生徒たち。
女子生徒F「もう!低学年じゃないんだから」
常本先生「○○が戻ったら授業を始める、自習を続けてくれ」
生徒たち「はーい」
常本先生「(作戦を練る時間が与えられたか...)(血の代償だ)(...そういうことか)」
ミカミと目が合う。ミカミが目をそらす。
常本先生「(ランドセルのことを思い出してるのか)」
回想
常本先生「こら!!なにやってるんだ!!」
野球部の少年「こいつ生意気なんだよ」
ボロボロのランドセルと泣いてるミカミ
常本先生「恥ずかしくないのか?」
野球部の生徒「なんでだよ!?」
常本先生「この子が生意気に思えるのはお前らが自分に誇りを持つことを諦めてるからだ!」
常本先生「(まだ2年生だったミカミを野球部に放り込む手筈の整えたのは俺だ...)(お前は生徒を傷つけてばかりだ)(そうかもしれない)(そんなことないよ)」
心を見抜かれて涙をこぼす野球部の少年たち。
常本先生「謝ることだってできるんじゃないか?」
野球部主将の少年「ごめん...!」
謝られて大泣きするミカミ
常本先生「(あの時はランドセルの傷で異変を感じたんだっけな...)」
3年2組
ミカミ「先生、おれこのランドセルが好きなんだ」
常本先生「どうして?あんなひどいことされたのに」
ミカミ「でもおれ、野球が好き」
常本先生「野球のどこが...そんなに好きなんだい?」
ミカミ「みんな変わってくのが楽しい」
常本先生「(いかん、泣きそうだ)(泣けよ悲しい話だろ?)」
ガラ
生徒Cが戻ってくる
生徒C「恥ずかしかった~」
ミカミ「○○姫!」
一同「ははは」
常本先生「○○、傷は痛むか?」
生徒C「平気だよ!」
常本先生「○○先生に病院行けって言われたか?」
生徒C「ううん」
常本先生「そうか、じゃあ一緒に授業しようか」
生徒C「うん!」
☆★☆
ミカミの声(その後、若ちゃんくさくさ事件は自然解決した)
常本先生「業」
業「何?先生?」
常本先生「服、洗ってもらえるようになったのか」
業「コインランドリーで洗ってんだよ、お金はもらえるんだ」
常本先生「お風呂はどうだ?」
業「はいれるよ」
常本先生「そうか」
業「じゃあね!先生!」
常本先生「ああ、さようなら(なんだか急に業が大人びてきた気がするな...)(心配だ...)(安心ってことか?)(お前は俺をずっと愛してくれてるよな、哲也)」
田澤「先生さようなら~!」
ミカミ「さようなら!先生!」
常本先生「ああ、また明日な」
栞「先生!」
常本先生「どうした?栞?」
栞「もうすぐ卒業だね」
常本先生「おいおい、まだ先のことだろ?」
栞「あたしとアスカ、付属中に行くの」
常本先生「ミカミと業は二中か」
栞「多分そう」
常本先生「そのことは忘れてなさい」
栞「うん...!でもさみしい気もする」
常本先生「先生も前受け持ったクラスの卒業の時は...」
栞「泣いたの?」
常本先生「悔しかった、この子たちに何を教えれただろうってね」
栞「みんな常本先生のこと尊敬してたのに?」
常本先生「俺は尊敬されるようなことは何もしていない...ただ自分を救いたかっただけさ」
栞「いつか言ってた先生の根底の不思議、まだ秘密?」
常本先生「覚えててくれたのか」
栞「みんなあの授業のこと覚えてる」
常本先生「親鸞は俺と同じ嘘つきさ」
栞「真面目なやつが馬鹿を見るなんておかしい」
常本先生「みんなそう思うのは自分が本当の存在だと思ってるからだ」
栞「あたし、先生の根底の不思議が少しわかった気がするの!」
常本先生「解けそうか?このパズル」
栞「自信無い、でも先生が言いたいことはわかる」
常本先生「言葉にできないんだ」
栞「業がやってくれる」
常本先生「青い花丸のことか」
栞「向かい合って書いてたから青い花丸はきっと逆さになったはず!」
常本先生「栞...そんなに中学校が心配なのか?」
栞「うん...思い出のアルバムを今から準備してる...」
常本先生「やめなさいそんなことは」
栞「6年間」
常本先生「ずっと一緒だったな...俺とも、みんなとも...クラス替えがあったほうがよかったのかな」
栞「でもいつかは分かれる宿命」
常本先生「わかってるんだね、でも心が追い付かない」
栞「そこまで先生がわかってくれるなら、あたし安心!」
常本先生「そうか、じゃあ今日はもう帰りなさい」
栞「うん!さようなら!先生!」
常本先生「さようなら(あの子の名は栞)(今日どこから始めるのかを示してくれる存在か)(今日?お前に時間の感覚なんてないだろ?)(さあ、どういう意味でしょう?)(つくづく飽きないやつだよ、お前は)」
第4話 若ちゃんくさくさ事件 つづく